プロカヌーアスリート・當銘孝仁選手トークセッション
東京五輪カヌースプリント日本代表でプロカヌーアスリート當銘孝仁(とうめたかのり)選手(32)=アーネスト=によるトークセッションが新潟県弥彦村で開催され、沖縄から新潟・三条市にきてオリンピックへ挑戦した日々を語った。
トークセッション「夢を掴むために! 東京五輪カヌー代表・當銘孝仁の挑戦」が3月9日午後3時〜5時、弥彦村図書館らいわ弥彦(徳永絹枝館長)で、会場とオンライン(ZOOM)のハイブリッドで開催された。
パネリストは當銘孝仁選手とカヌースラロームワイルドウォーター(WW)アスリートで一般社団法人三条市スポーツ協会常務理事の岩瀨晶伍選手(40)。岩瀨さんは同じカヌー競技者、かつ、當銘選手のマネージメントをする立場の両面で関わってきた。徳永館長がファシリテーター(進行役)を務め、大学卒業後の2015年から新潟・三条市を拠点にオリンピックを目指した當銘選手と、その夢を支えてきた岩瀨さんに話を聞いた。
スポンサー探し
當銘選手は2021年8月に東京オリンピックカヌースプリント競技男子カナディアンシングル1000mに出場したが準々決勝で敗退。日本代表といっても年間200日〜300日の代表合宿や世界選手権などの海外遠征にかかる費用の多くが自己負担。資金的には厳しく「メダルを狙うには今の環境では難しい」として『プロアスリート』を目指し、岩瀬さんと二人三脚でスポンサー企業を探した。
ターゲットはパリ五輪
パリ五輪をターゲットに「TOME 5アクトプロジェクト」を掲げ、地域に根ざしたアスリートを目指し、地域振興、地域貢献活動も行って発信を高めた。小中学校での講演やスポごみへの参加、少年団の研修会、県内高校カヌー部に対してのスキルクリニックなど地域の活動にも取り組んできた。弥彦でも小学生対象のSUP&水辺の安全教室を開催した。
企業訪問
徳永館長は2015年〜2021年まで新潟県スポーツ協会でコーディネーターとして東京五輪の本県誘致に取り組み、アスリートのキャリア・雇用支援に関わり、選手と企業を繋いできた。當銘選手にも企業を紹介し、一緒に企業訪問をしたこともある。
プロカヌーアスリート誕生
2022年に複数社の支援が決まり、カヌースプリント競技ではほぼ初めてとなるプロカヌーアスリートとして活動をスタート。スポンサードを得たことで活動資金にも余裕ができ、トレーニングから食事に至るまで納得のいくものを追求できる環境が整い、独自にスペインやアメリカでの合宿も行い、各国の代表チームや五輪金メダリストなどともトレーニングを重ねた。
人柄が企業を引き寄せた
「プロアスリート」は若い選手などからは羨望の眼差しで見られ、どうやったらスポンサーを見つけられるんですか?と尋ねられることもある。徳永館長は「當銘さんの人柄が企業を引き寄せた」、岩瀬さんも「人柄をみなさんから評価いただいた」と『人柄』を強調。當銘選手は“付き合い”のために競技パフォーマンスが下がって嫌になることもあるかもしれないが「繋がりを作るためにはアルコール(酒席)も必要なことがある」と赤裸々に語った。
カヌーの魅力
中学生時代はハンドボールをやっていた當銘選手は高校で先輩から勧められてカヌーを始めた。岩瀬さんは15歳から25年間、カヌーに関わっている。
カヌーの魅力について、岩瀬さんは「正直わからない」、やっていて楽しいが見ていて面白いスポーツかどうか(は疑問)?川を下って景色が綺麗だとか気持ちがいい、とかはあまりなく「競技の勝ち負けにすごく集中している」。
當銘選手は「一人でやる競技は自己満足の世界」で「試合で負けたのに嬉しい試合もあるし、勝ったのに楽しくない試合もある」、やりたいことができたレースは負けても自分としては大満足だとした。
彼の夢が僕の夢
岩瀬さんは「當銘が夢を叶えることが僕の夢」と、いろんなところで話してきた。応援したくなる、人を巻き込んでいく力が「當銘の最大の魅力」。だが、支えるのは「本当に大変」と吐露。リオ五輪の予選敗退からここに至るまで本当に長い間支えてきたが「後悔はないし、嫌だと思ったことも一度ない」とキッパリ。
関わることの幸せ
徳永館長も「民間の支援先を求めることに異論もあったが、二人が頑張っている姿を見て心を揺り動かされた。私がオリンピックに出るわけではないが、関わることの幸せを感じていた」と語った。
夢を掴むために
テーマの「夢を掴むために」について岩瀬さんは、夢を(人に)話すことが大事で、京セラ創業者の稲盛和夫氏の人生成功の方程式「考え方+熱量+スキル=人生・仕事の成功」を噛み締めている、と述べた。
當銘選手は夢を掴むために大切なことは「想像し得るか、し得ないか」を挙げた。頭で思い描けることは大体できる。突き進めばいい。未来の自分が思い描けなかったり、プロセスや発想が出ない時は(その夢は)違うかもしれない。しっかり明確に思い描ける時は「他人の声を無視してでも突き詰めればいい」と強調した。
4月からは沖縄を拠点に活動
4月から當銘選手は、三条市から家族のいる沖縄に活動の拠点を移して競技を続け、2028年のロサンゼルスオリンピック出場を「目指していきたい」としている。
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[當銘孝仁選手プロフィール]
沖縄県糸満市出身。大正大学卒業後の2015年から2022年3月まで三条市スポーツ協会(当時は三条市体育協会)に所属。沖縄水産高校時代に始めたカヌースプリント・カナディアン競技でインターハイ、インカレ優勝。ジュニア、U23、A代表と各年代の日本代表として活躍。世界選手権やワールドカップにも出場。リオオリンピックでは出場まであと一歩と迫った。東京オリンピックへは男子カナディアンペア(C-2)1000mでの出場を目指しシニア世界選手権大会やアジア選手権に挑んだ。特にアジア選手権ではトップと0.17秒の僅差まで迫るも、日本の出場枠獲得には至らなかった。その後、シングル(C-1)1000mの東京五輪代表選手選考会で優勝し、2021年8月、東京五輪に出場した。
2022年4月からアーネスト株式会社(新潟県三条市福島新田)に所属。パリ五輪出場を目指して、国内初のプロアスリートとして競技者としてだけではなく、地域活性化に資するアスリートとして、社会貢献にも協力してきた。
[岩瀨晶伍選手プロフィール]
神奈川県横浜市出身。2004年カヌー選手として新潟県三条市に移住。三条市スポーツ協会でスポーツ全般を支えながら競技者としても活躍。2019年カヌーWWワールドカップフランス大会出場。同年カヌーWWジャパンカップ岩手大会準優勝。2023年右肩脱臼骨折の大怪我を乗り越え、競技復帰に向けてリハビリ・トレーニングを続ける。
現在、三条市スポーツ協会常務理事・県央スポーツネットワーク(県央6市町村スポーツ協会連携組織)理事・事務局長として、三条市のみならず県央地域のスポーツ振興に取り組む。
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