【部活動の地域移行】子供たちが多様で有意義なスポーツ時間を過ごすための新しいカタチ

「地域ミーティングin県央」

部活動の地域移行による中学生世代の新たなスポーツ環境づくりや地域スポーツ推進体制の基盤強化などについて、最新情報や実践事例を踏まえ地域で意見交換・情報共有する「地域ミーティングin県央」が各種スポーツ団体、少年団、行政、学校等の関係者約100人ほどが参加して開催された。

地域ミーティングは公益財団法人新潟県スポーツ協会が主催して2023年10月28日午後1時から、三条市栄体育館で開催され、新潟医療福祉大学副学長・教授の西原康行氏、新潟県教育庁保健体育課副参事の桑原文博氏、NPO法人希楽々理事長渡邊優子氏、新潟県中学校体育連盟理事長阿部修氏の講演を聞いた。三条市、燕市、加茂市、田上町、弥彦村、見附市のスポーツ協会で構成する県央スポーツネットワーク(中條耕太郎会長)が共催。

開会で県スポーツ協会の細貝和司専務理事は「部活の地域移行は単に学校の部活が地域に移るというだけではなく、少子高齢化、人口減少の中で次代を担う子供たちのスポーツ環境をどう再編していくのか、持続可能な地域のスポーツ環境、これを子供たちだけではなく大人も含めて見直す。その環境を作っていく大きな機会だと捉えている。積極的な議論を期待している」とあいさつをした。

なぜ部活動の地域移行なのか?

新潟医療福祉大学副学長・教授、新潟県部活動改革検討委員会座長を務める西原氏は公務のため急な欠席となり動画で「なぜ部活動の地域移行なのか? 中学生にとって望ましいスポーツ環境とは」をテーマに講演した。
日本のスポーツの状況・環境を大きく変える一大事業となっている部活動の地域移行は先生の働き方改革のことではなく、中学生や地域の子供たちにとって望ましいスポーツ環境を作っていくことが一番の目的だと述べた。部活動改革は何十年も前から検討されてきた課題で、それぞれの時代の中でいろいろな背景があり、なかなか部活動が学校から切り離せなかった。教育課程の“体育”と違う部活動の目標・内容・評価とはどうあるべきなのか?が問われていて、地域の条件整備として、受け皿を作っていくことが必要になる。

本来の部活動(クラブ)の魅力とは子どもが自主的・主体的に参加し、地域で生涯にわたるスポーツや文化とのかかわり方を学ぶということだが、過剰な勝利至上主義だったり指導者の一方的な指導など、大人の都合になっていないか?が問われているとして、“子どもの自主的・主体的な参加”の例として、日本とドイツの違いを示した。

地域移行期間の運動部活動のあり方として、誰もが参加しやすい運動部活動にしていく、複数の活動を経験できる日数と時間を考える、活動時間の適正化、勝つことだけを狙って一方的に指導するような指導体制の見直し、地域のスポーツ団体との連携・協働を図りながら地域の中で子供たちを育てていくことが必要であり、トップレベルで戦いたい、スポーツを楽しみたい、など多様な子供のニーズに応えることもとても大事だとした。

休日の部活動の段階的な地域移行について

続いて、新潟県教育庁保健体育課副参事・部活動改革担当の桑原氏が休日の部活動の段階的な地域移行について国の動向や県の取り組みを説明した。
国は令和4年12月に「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定し『令和5年度から7年度までの3年間を「改革推進期間」として、地域の実情に応じて可能な限り早期の実現を目指す』とした。

桑原氏は令和5年4月1日現在の県、三条、燕、加茂市の年齢別推計人口の表を示し、三条市では15歳の人口が764人に対し0歳が457人で、15歳人口に対する割合は59.8%で15年後は6割近くに減少することが推計でき、同様に燕市では62.3%、加茂市では41.7%の数字を示した。現在、三条市の中学校が8校、燕市、加茂市が各5校で、規模はより小規模化し、少子化はさらに進むことが予測されていて、学校規模の縮小がますます進み、先生の数も減り部活動は単独で編成できない、やりたい競技の部活がない、専門の指導ができる顧問がいない等のことが多く起こるだろう。県央地区の中学校、特に小規模校では部活動の充分な選択肢がない状況となる、と述べた。

子供たちの健全育成のために不可欠なスポーツ活動について、持続可能なカタチで環境を提供するために学校部活動に代わる新しいカタチを作っていく必要があり、県教育委員会の部活動改革検討委員会は地域運動部活動の目的を「運動したい生徒すべてが参加可能な、競技力向上のみを目的としない運動機会の確保」と明確に示した。
生徒数が少ない地域では全てのニーズに応えることができないことから、近隣の市町村で連携の必要性を指摘した。

地位移行に向けた県内のクラブチームの数は8月現在で23市町村、31競技、200クラブとなっていて、上越市ではチアリーディングやカンフー、クライミング、佐渡市ではマリンスポーツ、自転車といった学校部活動に無いような取り組みもあり、平日は運動部活動、休日は文化活動といった複数の活動を同時に行っている生徒も増えてきていると紹介した。

村上市の取組 〜融合型部活動の推進〜

NPO法人希楽々理事長、総合型地域スポーツクラブ全国協議会幹事長の渡邊氏は「村上市の取組 〜融合型部活動の推進〜」をテーマに実践事例を話した。
希楽々(きらら)は総合型スポーツクラブだが地域課題解決プログラムに力を注いでいて、平成18年にミニバスの受け皿として女子バスケサークルを作り、同24年に“新しいカタチの部活動”を構想し実践。同29年から融合型部活動として現在に至る。

新しいカタチの部活動は部活動改革だから取り組んだわけではなく、子どもたちの困っている想いをカタチにしたもの。
具体的には、部活にない種目に取り組み、やりたい生徒がいる。保護者は部活の新設を懇願するが学校はできないと言う。そこで学校、保護者、クラブで話あいをして“部活動に準ずる活動”ということで合意して“新しいカタチの部活動”として3中学校、17人で活動をスタートした。

「融合型」とは学校が関与する地域の活動だが、第1回融合型部活動運営協議会は敗戦だった。次は「種目別ワークショップ」を実施したら効果的だった。同じ種目について学校、保護者、地域の指導者、行政で話をすると「この種目をどうしたらできるか」というポジティブシンキングに変わった。この1ヶ月後に融合型第1号のバスケットボール空間「Hangout」がスタートした。

4年間で「Hangout」、ソフトテニス空間「KSTC」、軟式野球空間「NEXUS」が誕生し、令和3年からバスケットボールと軟式野球が休日地域移行した。

指導者がいても地域の部活動はできない。どこが総括管理するのか、が一番大事だ。公益性がありガバナンスがしっかりしている運営主体が必要だった。さらに地域と学校を結ぶコーディネーターも必要。
多様なスポーツを自由に選択できることにも留意した。4年間の実績を作り、行政を巻き込みスポーツ庁へも要望した。

少子化の問題に対しては一つの学校、地域だけではやっていけないので、村上市全地区(5地区・7中学校)を対象に「村上市でこの種目をどうするか?」を考える種目別ワークショップを実施した。

今年から中体連の大会にクラブチームが出場できるようになった。そこで起きたのは「大会どっち出る」と「ユニフォームどうする」問題。
10人いる神林中バスケ部で、7人はHangoutに所属し、3人は部活のみでいいという子。大人は3人がかわいそうといい、学校は3人がいる限りHangoutでは大会に出ないという。結局、3人の気持ちを確かめ、話し合いをしてHangoutで出場した。
2年前のコロナ禍で多くの大会が中止になっていて、「秋のクラブ選手権に出たい」といろんな学校から不完全燃焼のまま引退した3年生が集まってきていた。さて、大会に出るにはユニフォームが必要だが保護者からの負担は無理と考えて費用をクラブで作って貸与した。

現在、取り掛かっている陸上競技の練習に参加した生徒からは「緊張感があった」「実力に合わせて練習ができた」「普段とは違うアップの仕方を知ることができた」「定期的にこんな活動ができたらいいな」などの声があった。

渡邊氏が取り組んできた地域移行には「中学生だけの問題ではない」「少子化として片付ける問題でもない」「小さい時に楽しいスポーツを体験してきたのか」「子供が自主的に選んでいるのだろうか」など大きな課題があるが、「行政が動かない、学校がどうのこうのというがみんな当事者になればできることだ。先送りせず、今の子供たちから今できる精一杯をする。『どうしたらできるか』知恵を出さなければいけない」と述べた。

「中体連大会」への地域スポーツ団体の参加について

県中体連理事長の阿部氏は、令和5年度から県内の中体連主催大会に地域スポーツ団体の参加が認められたことを説明。昨年から申請を受け付け、県中体連の認定基準や日本中体連の競技部細則に則った認定作業を経て、令和5年度に県中体連で認定したクラブチームは83団体。このうち69団体が大会に参加した。(※県央地区では、陸上競技の新潟アルビレックスRC(三条市他)、弥彦JrハイスクールRC(弥彦村)、軟式野球の加茂クラブ(加茂市)、ソフトテニスの燕ソフトテニススポーツ少年団(燕市)、バドミントンの燕BC(燕市)、ふらっとジュニア(燕市)が認定団体)

令和8年度までは今の全国中学校体育大会は続くが、令和9年度からは現在協議中。北信越の中学校体育連盟でもこのままではたちゆかないので廃止してはどうか、という意見もあるが、交流戦とか種目を少なくするとか、何らかの形で継続していく方向で考えていて、廃止はないようだ。部活動自体をなくすと地域移行ができないという都道府県もあるようで、中体連の大会をいきなりなくすのは難しいという声がある。

勝利至上主義については、普及と強化が大事で、強化と勝利至上主義は違うと考えている。中体連は勝利至上主義の行き過ぎやストップをするために結成された団体。今後もコンプライアンスやガバナンスを遵守して、中学生の健全育成とスポーツということでいろんな活動や大会を工夫していく。

最後に阿部氏は、今年から中体連の中で2つのことが変わったとして、1)A、B、C校があって、A校に野球の拠点を置いて、B・C校がA校に集まってチームを作って大会に出るという拠点校方式を認めた、2)外部指導者が引率をして学校長が認めれば監督もできる特例を設けたことをあげた。

講演後、質疑応答、グループ別意見交換を行い午後4時半頃に閉会した。


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