【講演】怒りをコントロールしてグッドコーチへ

スポーツ・インテグリティに関する指導者研修『怒りで失敗しないためのアンガーマネジメント』

スポーツ・インテグリティ(誠実性・健全性・高潔性) を高め、「怒り」の指導で失敗しないために『アンガーマネジメント』を身につけ、指導者の質向上を目的とする講演「怒りで失敗しないためのアンガーマネジメント」が新潟県三条市で開催され、スポーツ少年団の指導者らがグッドコーチになるための方法を学んだ。

「インテグリティ(Integrity)」とは、「高潔さ、品位、完全な状態」を意味する言葉。スポーツ界にはハラスメントや指導における暴力、ガバナンスの欠如、不正な会計処理、ドーピング、八百長などの脅威が存在するが、スポーツ・インテグリティとはその脅威が取り除かれている状態を指す。たびたび顕在化する指導における暴力は、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」を身につけることで取り除くことが可能となる。講演は「怒り」で失敗しないために、感情が生じる仕組みとコントロールする方法を身につけ、指導者の質向上を目的として三条市スポーツ少年団(米山俊司本部長)が主催し、2021年12月19日に三条市役所栄庁舎3Fホールで開催。オンラインを含めて30人程の指導者らが聴講した。

講師はスポーツ界における暴力行為等の根絶に向けた活動を推進し、一般社団法人スポーツフォーキッズジャパン(SKJ)を主宰して数多くのセミナー・講演会を全国各地で行っている渋倉崇行氏がオンラインで行った。渋倉氏は新潟市出身、新潟南高校3年の時に投手で四番打者として夏の甲子園に出場、現在は桐蔭横浜大学大学院スポーツ科学研究科准教授。SKJは「体罰を用いた指導」を青少年スポーツの現場から根絶することを目標として研修活動などをおこなっていて、スポーツ系のパワーハラスメントの講演を先駆的に行っている。

渋倉氏は青少年スポーツの意義について、文部科学省の報告や日本スポーツ少年団の理念を示しながら、「身体的・精神的・社会的成長をすること」で、指導者の役割はスポーツを通じて子供の人間形成に寄与することだとした。

アメリカでは「選手が第一、勝利は第二(Athletes First,Winning Second.)」だと言われている。では青少年スポーツでは勝利を目指してはいけないのか?そんなことはなく、意欲的に取り組む上で勝利を目指すことは大切なことで、勝利を人間形成の場を提供する手段やきっかけとして捉えれば良い。これからの人間形成には子供の自主性・自発性を重視した民主的な指導が求められていて、WHOが提唱した「ライフスキル」を日々のスポーツ活動の中で使用する場を意図的に組み込み、スポーツスキルを上げるために競技達成目標、人間形成目標のダブルゴールを設定し、目標達成を目指すことだとした。

“感情爆発型”に効果的なアンガーマネジメント

暴力指導者には、確信犯型、指導方法がわからず型、感情爆発型、暴力行為好き型の4タイプがある。暴力は禁止されていると知っているが感情のコントロールを失って暴力を振るう“感情爆発型”にはアンガーマネジメントが有効。アンガーマネジメントは怒らなくなるという事ではなく、怒る必要のあることは上手に怒るということで、怒りの感情と上手に付き合うために必要なトレーニング。

怒りをコントロールするためには?

試合でミスした場面で指導者に生まれる怒りは、「こうあるべきである!」という理想(指導の期待)と現実のギャップから生まれるもので、そこに思考のコントロールが必要。同じ失敗を繰り返す「べき」ではない、と考えるところを、上達において失敗は重要な経験である、と考え直してみる。柔らかい考え方をすると“まあ許せるゾーン”が広がり、怒らなくてはいけない場面が少なくなる。

6秒

怒りの感情は6秒しか続かず急速に収束するので、怒っていると感じたら6秒待つ。
グッドコーチが目指す対応は、怒りの感情をぶつける事ではなく「行動を修正し、成長を導くこと」。失敗は成長の材料と考え、感情的にならず、行動に焦点を絞り、冷静に説明し、明確・簡潔に伝えることで成長を導くことができる。「こうすれば成功するよ!」「きびきび動こう!」「集中していこう!」など前向きな言葉がけで選手のやる気が変わっていく。

グッドコーチに向けた「7つの提言」

大阪の高校バスケ部で指導者の体罰を受けた生徒が自死する事件を受け、体罰の根絶に向けてオールジャパン体制でコーチング環境の改善・充実に向けた取組を推進するため文部科学省が設置する「コーチング推進コンソーシアム」が2015年に提言した『グッドコーチに向けた7つの提言』を説明。

指導力を高めるためには、まわりのグッドコーチを探して、その指導を「観る」、「教えてもらう」。本や研修会に参加して新しく正しい知識を「入手する」、指導を行なってそれを「省察する」ことを勧めた。また、コーチングは時代とともに変わるので、あの指導で勝てた、自分が教わった指導方法など、「経験主義的指導」から脱却し、常に「指導力の向上」に努めなければならない。

指導者は学ぶことをやめてはいけない、と呼びかけて講演を終了した。

講演会終了後の取材にミニバスチームを指導する男性は、「シュートを失敗したとかミスで怒ることはほとんどない。態度とか口の利き方とか、集中してやっていない時とか投げやりになったり諦めたり(した時に怒る)」が、これからは「6秒我慢することと指導仲間を持つということで(お互いに)評価をする」ことをやっていきたいとした。

[グッドコーチに向けた「7つの提言」]
1.暴力やあらゆるハラスメントの根絶に全力を尽くしましょう。
2.自らの「人間力」を高めましょう。
3.常に学び続けましょう。
4.プレーヤーのことを最優先に考えましょう。
5.自立したプレーヤーを育てましょう。
6.社会に開かれたコーチングに努めましょう。
7.コーチの社会的信頼を高めましょう。
日本スポーツ協会のwebサイトへ⇒(外部リンク)


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